科学では説明がつかない、奇妙な出来事に魅力を感じたことはあるだろうか?
例えば、青空の下、突如としてカエルや魚が降り注ぐ。誰も見ていないはずの場所で、人が spっと消えてしまう。夜空に現れる、何とも形容しがたい光る物体。私たちは日々、合理的な世界に生きているように思えるが、その裏側では説明不能な現象がひそかに積み重なっている。
「ありえない」と片付けてしまえばそれまでだ。しかし、もしもそれらが本当に起こっているのだとしたら?
そんな奇妙な出来事に魅せられ、一生をかけて記録し続けた男がいた。彼の名はチャールズ・フォート。科学の外側に追いやられた"呪われた事例"を集め、時にはユーモアを交えながら、それが意味するものを考え続けた。
今回は、フォートという人物と、彼が遺した謎めいた記録などを紹介します。
世界の奇妙な出来事を追った男、チャールズ・フォート
科学では説明のつかない不思議な出来事に、あなたは心を奪われたことがあるだろうか?
青空の下、突然カエルや魚が降ってくる。誰もいないはずの場所で、人が spっと消えてしまう。夜空に浮かぶ、何とも形容しがたい発光体。日常の常識からはかけ離れた、そんな出来事がこの世界には確かに存在している。
「ありえない」「単なる偶然」と片付けてしまうのは簡単だ。しかし、それらが実際に起こっていたとしたら? 誰もが見過ごす奇妙な現象に目を向け、膨大な記録を残した男がいる。
チャールズ・フォートとは?──科学の外側を記録した男
チャールズ・フォート(Charles Fort, 1874-1932)は、アメリカ生まれの作家・研究者だ。しかし、彼はいわゆる「科学者」ではなく、むしろ科学の枠組みからこぼれ落ちた現象を集め、記録し続けた人物だった。
フォートの人生は、好奇心と独自の視点に満ちていた。若い頃はジャーナリストや作家を目指したが、やがて図書館にこもり、何千冊もの新聞・科学誌・古文書を読み漁る日々を送るようになる。そこで彼が見つけたのは、科学が無視し、説明できずに葬り去った不可解な出来事の数々だった。
1919年、彼はそれらをまとめた著作「The Book of the Damned(呪われた書)」を発表する。「呪われた」とは、科学の世界から排除された現象を指している。以降も彼は「New Lands」「Lo!」「Wild Talents」といった本を執筆し、不可解な現象の記録を発表し続けた。
しかし、フォートが単なる「オカルト研究者」だったわけではないのが面白い点だ。彼は超常現象を盲信していたわけではなく、むしろ科学に対するユーモアのある批判として、それらの出来事を記録していたのである。
「科学がすべてを説明できるわけではない。ならば、私たちは何を信じればいいのか?」
そんな彼の視点は、やがて後世のオカルト研究家やSF作家たちに大きな影響を与えていくことになる。フォートが集めた「呪われた事例」の数々は、奇妙な現象の研究だけでなく、科学そのものに対する新しい視点を提供するものだったのだ。
フォートが記録した奇妙な現象
チャールズ・フォートは、科学の枠組みから外された数々の奇妙な出来事を記録し続けた。その膨大なリストの中には、まるでフィクションのような出来事もある。しかし、それらは実際に新聞や科学誌に掲載された「報告例」に基づいている。
ここでは、フォートが特に注目した代表的な奇現象を紹介しよう。
ファフロツキーズ現象──空から降る奇妙なもの
ある日、何の前触れもなく空からカエルや魚、さらには石や肉片が降ってくる──そんな現象が世界中で報告されている。フォートはこの現象を**「ファフロツキーズ(Fafrotskies)」**と名付け、膨大な事例を記録した。
特に有名なのは、1861年のシンガポールでの魚の降下事件、1877年にアメリカ・ケンタッキー州で起きた**「肉の雨」事件などだ。現代科学では、「竜巻や強風が池や海から小動物を吸い上げ、それが後に降り注ぐ」と説明されることが多い。しかし、フォートはこれに対して、「本当にそんなに都合よく、同じ種類の生物だけが空から落ちてくるのか?」**と疑問を投げかけた。
彼は、これを単なる自然現象ではなく、異次元の裂け目や宇宙人の干渉の可能性として捉えた。もちろん、これはユーモアを交えた仮説だが、彼の視点は「当たり前の説明を疑う」という点で非常に独創的だった。
突然消える人々──ヴァニッシング・ピープル
フォートの記録には、「何の痕跡もなく人が消えた」事例が数多く登場する。現代では失踪事件として扱われるが、彼が収集した報告の中には、常識では説明できない失踪が含まれている。
例えば、1880年、アメリカ・テネシー州で起きた「デヴィッド・ラング事件」。彼は家族が見守る中、広場を歩いていたが、突如として消えた。家族が慌てて駆け寄ったが、どこにも姿はなく、地面には穴も何もなかった。彼は二度と発見されることはなかったという。
科学的には、犯罪や事故、心理的要因による失踪が考えられるが、フォートは「異世界への転送」「時間の歪み」などの可能性を示唆。こうした失踪事件の記録は、のちの異次元トラベルやタイムスリップをテーマにしたSF作品にも影響を与えたと言われている。
空に浮かぶ謎の発光体──UFOの先駆け?
フォートは夜空に現れる不可解な発光体についても数多くの記録を残している。現在ならUFOと呼ばれるような現象だ。
彼の著書には、**「黒い影が月を横切った」「大都市の上空に謎の光が浮かんでいた」「未知の飛行物体が高速で移動していた」**といった報告が数多く記されている。
今日では「目の錯覚」「気象現象(火球や雷放電)」「大気光学現象(蜃気楼や光の屈折)」といった科学的な説明がつけられることも多い。しかし、フォートはこれを単なる錯覚ではなく、**「宇宙からの訪問者」「未知の存在による観察」**といった可能性として考察した。
現代のUFO研究において、フォートの記録は重要な先駆けとなったと言われており、彼の影響を受けたUFO研究者も多い。
ありえない生物──未確認生物(UMA)の目撃報告
フォートは「科学に無視された生物」の報告も収集していた。現在でいう**未確認生物(UMA)**の先駆けとも言える。
・湖に住む巨大な蛇のような生物(ネッシー型の目撃報告)
・夜の森に光る目を持つ異形の怪物(モスマン型の報告)
・翼を持ち、人間のような姿をした存在(グリフォン、ガーゴイルのような目撃例)
これらの報告は、後のオカルト研究家や怪奇文学作家、SF作家たちに大きな影響を与えた。H.P.ラヴクラフトの「クトゥルフ神話」や、怪獣映画の設定にも、フォートの影響が見られると言われている。
フォートは、これらの奇妙な現象を盲目的に信じたわけではない。むしろ、「現代科学はまだ全てを説明できるとは限らない」という姿勢で、それらを記録し続けたのだ。
彼のスタンスは単純な「オカルト信仰」とは異なり、「既存の科学に対するユーモアを交えた批判」という側面が強い。例えば、彼はこうした現象を紹介しながら、科学者の頑なな態度を皮肉ることもあった。「科学は、都合の悪い事例を見なかったことにするのが得意だ」
フォートの言葉は、科学の進歩に対する重要な警鐘でもあった。彼は、「すべての事象に対し、決めつけずに考えることの大切さ」を訴えていたのかもしれない。
フォートの影響を受けたフォーティアンたち
チャールズ・フォートの奇妙な記録は、単なる珍奇な読み物にとどまらず、多くの人々の思考に影響を与えた。彼の研究を受け継ぎ、さらなる探求を続ける者たちは「フォーティアン(Forteans)」と呼ばれるようになった。
フォーティアンとは、「科学が無視した不可解な現象」に関心を持ち、フォートのように疑問を抱き続ける人々を指す。彼らはオカルト信奉者とは異なり、「信じる」のではなく「疑い続ける」姿勢を重視する。フォート自身も超常現象を盲目的に信じていたわけではなく、「科学がすべてを説明できるとは限らない」というスタンスで物事を見ていた。その精神を継ぐ者たちがフォーティアンなのである。
フォートの影響を受けた作家・研究家たち
フォートの考え方は、特にSF作家やオカルト研究家に大きな影響を与えた。
・H.P.ラヴクラフト ─ フォートの奇妙な記録に触発され、「クトゥルフ神話」の宇宙的恐怖の概念を創出
・アイザック・アシモフ ─ 科学と疑似科学の境界について論じる際、フォートの姿勢を参考に
・ロバート・ハインライン ─ フォートの発想をSF作品に取り入れ、科学的懐疑主義をテーマにした作品を執筆
また、1940年代には「フォーティアン協会(Fortean Society)」が設立され、フォートの思想を受け継ぐ形で奇妙な現象の調査・研究が行われるようになった。さらに、彼の影響を受けたUFO研究家やUMAハンターも登場し、現在のオカルト・ミステリー分野にもフォートの名は刻まれている。
フォートの遺産と、現代のオカルト研究への影響
チャールズ・フォートは、一見すると単なる「奇妙な現象のコレクター」に思える。しかし、彼の残した記録と考え方は、オカルト研究のみならず、科学そのものに対しても重要な影響を与えている。
フォートの遺産とは、何よりもまず「ありえない」とされる現象に対して真正面から目を向ける視点を提示したことにある。彼は、科学が見過ごし、説明できないがゆえに切り捨ててきた出来事を記録し、それらが単なる偶然や錯覚ではなく、未知の可能性を秘めていることを示唆した。
また、彼は科学の限界と盲点をユーモアを交えて指摘し続けた。盲目的に科学を信じるのではなく、既存の理論に疑問を持ち、時には皮肉を交えながら新たな視点を提供することで、科学的探究心そのものを刺激したのだ。
現在も、フォートの名はミステリー研究の世界で生き続けている。UFO研究、UMAハンティング、異次元理論──彼が残した「呪われた事例」の数々は、今もなお世界中のフォーティアンたちによって議論され続けているのだ。
では、あなたはどう考えるだろうか?
空から降る魚、人が突如として消える事件、空を漂う発光体……。これらはすべて、合理的な説明のつく単なる偶然なのだろうか? それとも、科学がまだ説明できていない未知の力が働いているのだろうか?
フォートが遺した「疑うことの面白さ」に思いを馳せながら、もう一度、私たちの世界を見つめ直してみるのも悪くないかもしれない。
参考サイト
・LUX: Yale Collections Discovery
・BOOK REVIEW『UFO手帖7.0』フォーティアンでいこう! チャールズ・フォートの奇妙で貴重な仕事と『マグノリア』|映画秘宝公式note