エンフィールドの住宅街にある普通の家に、ある日突然異常な現象が起こり始めた。8月の終わり、季節が夏から秋へと移り変わる頃、ホジソン家ではいつも通りの静かな夜を過ごしていた。ペギー・ホジソンは、シングルマザーとして4人の子供たちを育てる日々に疲れを感じながらも、その日は特に変わったこともなく、普通に終わるはずだった。しかし、その夜が家族の運命を大きく変えることになるとは、彼女は夢にも思わなかった。
深夜、突然の大きな音が家中に響き渡る。ペギーは驚いて目を覚まし、すぐに子供たちの部屋へと向かった。ジャネットの怯えた表情を見た彼女は、すぐに何かがただ事ではないことを察した。ジャネットは、ベッドが勝手に動いたと訴える。ペギーは信じがたい思いでベッドに手を伸ばし、確かめるが、当然のようにベッドは動かない。しかし、再び耳を澄ますと、壁から奇妙なノック音が聞こえてくる。まるで家そのものが何かを訴えかけているかのようだった。
その後も、音は止むことなく続き、ホジソン家全員の眠りを奪い去っていった。ペギーは何度も部屋を見回し、原因を突き止めようとするが、音の正体は分からない。翌朝、何もなかったかのように始まった日常の中でも、ペギーの胸の中には不安が募っていく。これが始まりに過ぎないことを、この時の彼女はまだ知らなかった。
次の日の夜も同じように、異常な現象は続いた。今度は家具が勝手に移動し、物が宙を舞う。ペギーは子供たちを守るために必死に冷静を保とうとするが、次第にその努力は限界に達していった。特に、次女のジャネットに現れる変化は、ペギーの恐怖を頂点へと押し上げるものだった。ある日、ジャネットが低く不気味な男性の声で話し始めたのだ。
その夜、ペギー・ホジソンは自宅での異常な出来事に頭を悩ませていた。奇妙なノック音や家具の動きは続いていたが、これまで以上に恐ろしいことが起こるとは想像もしていなかった。しかし、事件はさらに奇妙な方向へと進んでいった。ジャネットが、突如として全く別の声で話し始めたのだ。
その声は低く、男性のような響きを持ち、まるで喉の奥から絞り出すかのようなものだった。ジャネットの通常の声とはかけ離れており、ペギーは娘が自分の前で別の存在に乗っ取られているように感じた。その「ビル」と名乗る声は、まるで自分がこの家の本当の住人であるかのように語り始めた。
「俺はビルだ。ここに住んでいたんだ、ずっと昔に…」
その声は、暗く、冷たく、そして恐ろしかった。ペギーは凍りついたようにその場に立ち尽くし、目の前で起こる信じ難い出来事に息を呑んだ。母親としての本能は、何かが娘に起こっていることを感じ取りながらも、その何かが何であるかを理解することを拒んでいた。
ジャネットは、自分の意思とは関係なく、その声で話し続けた。「俺はここで死んだんだ。椅子に座って、気づいたらもう終わっていた…」ペギーは、その言葉を聞いた瞬間、恐怖が全身を駆け巡るのを感じた。娘がまるで、かつてこの家に住んでいた死者の記憶を語っているかのようだった。
彼女の頭の中は混乱し、何が本当で何が錯覚なのかを考えようとしたが、答えは見つからなかった。この声が本当にジャネットから発せられているのか、それとも何か別の存在が娘を通じて話しているのか、ペギーには分からなかった。娘を守りたいという思いと、未知なる恐怖に対する強烈な不安が入り混じり、彼女はその場に釘付けにされた。
その後、ジャネットは再び通常の声に戻り、まるで何事もなかったかのように元の状態に戻った。しかし、その夜の出来事はペギーの心に深く刻まれ、これが一時的な現象ではなく、長期にわたる恐怖の始まりであることを直感的に理解したのだった。
ペギーはその後も、娘が再び「ビル」の声で話し始めるたびに心の中で恐怖と戦い続けた。彼女は何度も娘を元の姿に戻そうと試みたが、その声はあまりにもリアルで、あまりにも生々しいものだったため、次第にこの家に何か邪悪なものが住み着いているのではないかという考えが頭を離れなくなっていった。
ペギー・ホジソンにとって、この声は単なる異常現象ではなく、家族の絆や精神的な平穏を脅かす恐怖そのものだった。彼女は娘の身体が何者かによって利用されているかのような感覚に襲われ、その恐怖は日を追うごとに増していった。事件が進展するにつれて、彼女は自分の家が安全な場所であるはずがないという現実を受け入れざるを得なくなった。
事件はやがて、家の外へと広がり、心霊研究者たちの関心を引きつけることになる。だが、ホジソン家にとって、その日常が失われた日々は、何よりも恐ろしく、耐え難いものであった。ペギーは、母として家族を守るために、何とかこの恐怖に立ち向かおうと決意するが、その先にはさらなる困難が待ち受けているのだった。
ペギーは、家族を守るためにこの恐怖に立ち向かう決意を固めたが、日々続く奇妙な現象に心が蝕まれていくのを感じていた。ホジソン家の事件はすぐに外部の関心を引き、心霊研究者やメディアが家を訪れるようになった。家の前には報道陣が押し寄せ、事件は大々的に報じられるようになったが、ペギーにとってそれは解決の糸口というよりも、新たなプレッシャーを意味していた。
研究者たちが家を訪れて調査を進める中で、現象はますます奇妙さを増していった。ジャネットの「ビル」の声は再び現れ、家の中では物が勝手に動き、音が響き続けた。ペギーは次第に追い詰められていったが、それでも母として家族を支える使命感を手放すことはなかった。
やがて、事件は少しずつ収束の兆しを見せ始めた。1979年に入り、現象は徐々に減少し、最終的には完全に消え去った。しかし、ペギーにとって、事件が終わったことが安心をもたらすものではなかった。家族の日常は二度と元には戻らず、あの恐ろしい日々の記憶が彼女の心に深く刻まれたまま残り続けた。
ペギー・ホジソンは、その後も家族と共にエンフィールドの家に住み続けたが、あの家で起こった出来事は一生忘れることができないだろう。事件を通じて、彼女は何があっても家族を守るという決意を持ち続けたが、その決意が彼女に与えたのは、耐え難いほどの孤独と苦悩であった。
エンフィールド・ポルターガイスト事件
始まりでこの事件をペギー視点で経験した恐怖と混乱を小説的に書いてみましたがどうだったでしょうか?今回、エンフィールド・ポルターガイスト事件は小説や映画のように信じがたいものですが、事実として記録されています。
ここからは、この事件の詳細な背景と経緯を見ていきましょう。
エンフィールド・ポルターガイスト事件の詳細な背景と経緯
1977年の夏、ロンドン北部の静かな住宅地エンフィールドで、当時普通の家庭であったホジソン家に異常な現象が起こり始めました。夜になると、誰もいないはずの部屋から聞こえる奇妙なノック音、勝手に動き出す家具、そして何よりも不気味なのは、11歳の少女ジャネットが突然低く深い男性の声で話し始めたことでした。この現象はやがて「エンフィールド・ポルターガイスト事件」として知られるようになり、数年にわたり多くの人々の注目を集めました。
この事件は単なる超常現象の枠を超え、心霊研究家たちにとっても最も詳細に調査されたポルターガイスト現象の一つとなりました。一方で、懐疑的な視点からは家族の仕掛けた偽装ではないかとの指摘もなされ、現在でも議論が続いています。この記事では、この謎めいた事件の経過と、それが私たちに問いかける「見えない世界」の可能性について探っていきます。
事件の発端:エンフィールド・ポルターガイスト事件の幕が上がったのは、1977年8月30日の夜でした。その日、ロンドン北部のエンフィールド地区に住むホジソン家では、何気ない夜が過ぎるはずでしたが、事態は一変します。家の中で奇妙な音が響き渡り、特に次女のジャネット・ホジソン(当時11歳)がベッドで寝ていると、そのベッドが突然動き出したのです。
ペギー・ホジソン(ジャネットの母親)は、その夜のことを今でも鮮明に覚えています。娘たちが怯えながらも状況を説明すると、彼女も同じようにその異常な音を耳にしました。そして、その音が家全体に響き渡る中で、重い家具が自らの意志を持ったかのように動き出しました。ペギーは、恐怖と不安を抱えながらも、この現象をなんとか理解しようとしましたが、その夜を境に、家族は次々と奇妙な出来事に見舞われることになります。
これがエンフィールド・ポルターガイスト事件の始まりでした。この日から、ホジソン家は日常生活が一変し、説明のつかない現象が次々と発生するようになります。この事件が単なる家族内の出来事ではなく、世界的に注目される「ポルターガイスト現象」として認識されるまで、わずか数週間しかかかりませんでした。
主要な現象の記録
エンフィールド・ポルターガイスト事件では、多くの奇妙な現象が記録されました。特に注目すべきは以下の3つの現象です。
家具の移動と物体の飛翔:ホジソン家では、重い家具が独りでに動き出すことが頻繁に起こりました。特に、ジャネットのベッドが浮き上がり、部屋の反対側に投げ出されるといった現象が多く報告されています。また、家庭内の物体が勝手に飛び回ることも観察され、これらの現象はモーリス・グロスとガイ・ライオネル・プレイフェアによって記録されました。彼らは数百時間に及ぶ録音や写真を通じて、これらの出来事を詳細に記録しました。
謎の音:家全体に響き渡る不気味なノック音やラップ音が、昼夜を問わず繰り返し聞こえました。これらの音は、壁や床から発せられることが多く、家族全員がその音を聞いていました。これらの音の多くは録音され、調査の一環として分析されましたが、自然現象として説明できるものはほとんどありませんでした。
ジャネットの「ビル」の声:事件の中でも特に注目されたのが、ジャネット・ホジソンが低い男性の声で話し始めた現象です。この声は「ビル」と名乗り、自らがかつてこの家に住んでいたと主張しました。SPRの調査員たちは、この声を録音し、ジャネットが意図的に発しているのかどうかを調査しましたが、通常の人間がそのような声を長時間発することは難しいと結論づけています。この「ビル」の声は事件の信憑性を巡る議論の中心となりました。
心霊研究協会の調査
エンフィールド・ポルターガイスト事件が注目を集める中、心霊研究協会(SPR)のメンバーであるモーリス・グロスとガイ・ライオネル・プレイフェアが、事件の詳細な調査に乗り出しました。彼らは、事件の証拠を集め、現象がどのようにして発生しているのかを明らかにしようとしました。
グロスとプレイフェアは、数百時間にわたる録音や映像を記録し、また、ホジソン家に頻繁に訪れて現場を観察しました。特に、「ビル」の声を含む奇妙な音や家具の動きに焦点を当て、現象のメカニズムを探りました。彼らの調査によると、多くの現象が自然な原因や人為的な操作で説明できないことが分かりました。特に「ビル」の声や物体の飛翔は、通常の物理法則では説明がつかず、ポルターガイスト現象である可能性が高いと結論付けました。ただし、一部の現象については、ホジソン家の子供たちが関与している可能性も指摘されています。
事件のその後と影響
事件は1979年に収束しましたが、その影響は長く続きました。ホジソン家は事件後も注目を集め、メディアや研究者からの問い合わせが続きました。
ペギー・ホジソンとその家族は、事件後もエンフィールドの家に住み続けましたが、ポルターガイスト現象は徐々に収まりました。家族は当初、事件が終息するまで引っ越しを考えていましたが、最終的にその必要はありませんでした。
エンフィールド・ポルターガイスト事件は、1980年代以降の心霊研究やポルターガイスト現象に関する議論に大きな影響を与えました。また、映画『死霊館 エンフィールド事件』(2016年)をはじめとする多くのメディア作品で取り上げられ、広く知られるようになりました。
現代の視点と議論
エンフィールド・ポルターガイスト事件に対する現代の見解は様々です。一部の研究者や懐疑的な立場の人々は、事件を家族による偽装と見なしていますが、一方で、説明のつかない現象が多く含まれているため、超常現象としての可能性を認める意見も根強く残っています。
懐疑的な視点として事件に対しては、当時から疑いの目が向けられていました。特にジャネットが「ビル」の声を出していたことや、物体の動きに関しては、家族が何らかの手段で偽装していたのではないかとの指摘がありました。現在でもこの立場を取る人々は多く、事件の一部の現象については説明がつくと考えられていますが、現代の心霊研究者やパラノーマル研究者の中には、エンフィールド事件を改めて評価し、ポルターガイスト現象の実例として位置付ける動きもあります。これらの研究は、事件の記録された証拠や目撃証言に基づいており、すべてを偽装と断定することは難しいと主張しています。
エンフィールド・ポルターガイスト事件は、心霊現象の研究において非常に重要な位置を占める事件です。この事件が示すように、私たちの理解を超えた現象が存在する可能性は否定できません。一方で、現代においても懐疑的な視点が強く、真実は未だ解明されていない部分が多いと言えます。この記事を通じて、読者の皆さんが心霊現象や超常現象、人間の認識の限界について改めて問い直すきっかけになれば幸いです。
参考サイト
・Society for Psychical Researchの公式サイト: https://www.spr.ac.uk/
・Psi Encyclopedia - Enfield Poltergeist : https://psi-encyclopedia.spr.ac.uk/