魔女伝説
4月30日の夜、魔女達が集まり悪魔と共にお祭りをするという言い伝えがヨーロッパにはあるそうです。この日の夜の事を「ヴァルプルギスの夜」と言います。
この夜、魔女たちは自分がこの1年間どんな悪い事をしたかを悪魔に報告し、カビだらけのパンなどを食べ、その後、皆で背中合わせになって踊り、1番最初の鶏が鳴くと姿を消すと言う。
この魔女の集会地としてよく知られているのが、ドイツ中部のハルツ山地にあるブロッケン山である。
ドイツの世界的文学者ゲーテは戯曲「ファウスト」の中でヴァルプルギスの夜を取り上げた事により、この魔女の夜は世界に広く知られるようになり、ドイツのブロッケン山が元祖と言われるようになりました。
魔女とホウキの関係
魔女と言えば、ホウキにまたがって空を飛んでるというイメージが定着していますが、17世紀、ドイツの民俗学者プレトーリウスは「ブロックスベルクの仕業」でブロッケン山のヴァルプルギスの夜について紹介している。
それによれば、魔女たちはホウキの他に、雄山羊や豚などに乗り、裸でブロッケン山へ飛んでいったという。(本にはヴァルプルギスの夜のイメージ絵があり、そこには雄山羊に乗った魔女たちが書かれています)
魔女が空を飛ぶ為に、身体に軟膏を塗って初めて空を飛ぶことができた、空を飛ぶ為には軟膏が重要なのだそうです。
ヨーロッパで魔女迫害が始まると、魔女は悪魔の使いであり、雄山羊は悪魔の化身であるという考えが広がり、魔女と雄山羊を組み合わせた絵がヨーロッパにおける魔女像として生まれたのである。
ドイツの画家アルブレヒト・デューラーは雄山羊の頭に背を向けて逆乗りする凄まじい魔女を描いている。
スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤは巨大な雄山羊の前で空を飛ぶ修行に励む裸の男女を描いている。
多くの画家達は、軟膏を体に塗ったりしている裸の魔女の絵を沢山書いており、これらの絵によって、魔女とはいかにも怪しい、目をそむけたくなるようなエロチックな存在という偏見が広まった。
16世紀、魔女狩りがドイツ全土に広まり、魔女として逮捕された多くの女たちは、悪魔に会いにサバト(黒ミサ)へ飛んでいったと自供した。どうやってサバトへ飛んでいったかというと、悪魔から空を飛べる飲み物や軟膏の作り方を教えてもらったり、もらったりして、それを飲んだり体に塗ったりしたという。
魔女狩り、魔女裁判などのお話はまた詳しく書こうと思うので、今回は魔女が取り扱っていた薬草について書いていこうと思います。
薬草の魔力
薬草にはどんな魔力が秘められているのか?
科学的には植物が持つ化学物質が人体へ物理的影響を与え体に様々な反応を示してしまう。また、精神的に影響を与え幻覚などを見せ、幻覚世界へとトリップしているのか?
ただ、それだけでは無く別の「何か」。魔力というのはその別の「何か」による力なのかも知れません。
そこには人々が持つ世界観、意識、環境、時代、空間、など複数の要素が集まる事で現実世界に影響を与えているんではないでしょうか?だからこそ様々な伝説や神話が生まれ語り継がれているんだろうと思います。
魔法の薬草の王様とも言われている「マンドラゴラ」
東地中海沿岸に起源を持つこの植物は、根っこの部分は二股に分かれ、人間の下半身のように見え、土から出るところは大きな葉が出て人間の髪の毛のように見えます。
魔女の薬草として使われる理由としては、アルカロイドのアストロピン、スコポラミンと言う毒成分を持つ事、そしてその植物の姿である。
このマンドラゴラには言い伝えがあり、マンドラゴラを掘り取る時に恐ろしい悲鳴をあげ、掘る人は耳栓をしないと発狂するか死んでしまう、その為にロープを根に結び犬に引っ張ってもらう、その際、犬は犠牲となり死んでしまうと言い伝えられているそうです。
ハリーポッターでも出てきてましたね。
他にもたくさんの言い伝えがあり、この根を持っていると幸せ、富を得るが最後には滅ぼされてしまう。この根を持っていただけで魔女として捕まってしまった女性の話も伝わっている。
古代エジプトでは、マンドラゴラは3大媚薬の一つと言われ、ツタンカーメン王の墓の壁画や埋葬されていた小箱に、マンドラゴラを植えたりしている人々が描かれています。
ちなみにこのマンドラゴラは、そのまま食べれるみたいで、ほのかに甘く美味しいらしいです。
魔除けの薬草
現代でも、御守りを持つ人は多いと思います、迷信だと承知していても旅行や受験の時に御守りを身につけてたり、お正月に破魔矢を買う人も多いですね。
そんな魔除け、ドイツではアムレットとか、タスマリンと言い、古代ゲルマン人が使っていたルーン文字など、何かのシンボルマークをつけた紙片や指輪、ペンダントが主であり紙や木片、石や金属などでできています。
キリスト教社会では、十字架が効果的な魔除けですね。
魔女が使う魔除けの薬草もたくさんあります。
魔除けに使う薬草は強い香りを持つものが多く、家畜小屋の中で燻されたり、かまどで燃やされ、その香りが魔を避けると考えられていました。
オトギリソウ
強い匂いが魔除けとして使われていたが、葉や花びらの数、植物の形なども魔除けとして使われていて、3枚葉はキリスト教においては三位一体を表し、4枚葉も十字架を表すので聖なる植物とされ、魔除けに効くとされていた。
5という数字も古代から聖なるものとみなされ、魔除けに使われる数字だ、一筆書きで描けるペンタグラムは様々なシンボルとして用いられています。
5枚の花弁を持つオトギリソウも特別な力を持った植物とみなされてきました。
オトギリソウの葉や花には精油を分泌する腺がある。抽出した精油はきれいな赤色で、味方によっては血のようで不気味にも思えます。
このオトギリソウ、漢字では「弟切草」
江戸時代の百科事典にその名の由来が紹介されている。984年〜986年、晴頼という鷹匠がいて、薬草を使って鷹の傷を治すことに優れていた。
その薬は秘伝であったが、晴頼の弟がその秘密をもらしていまい、怒った晴頼は弟の首をはねて殺してしまいました、その秘伝の薬の正体がオトギリソウだったという。
このお話を裏付けるように、オトギリソウは炎症や外傷によく効くそうです。
12世紀ドイツで活躍した尼僧院長ヒルデガルト・フォン・ビンゲン
ヒルデガルトは1106年、8歳でデジボーデンベルク修道院に入り修行を始め、後にここの院長となった。
その後ルーパーツベルク、アイビンゲンに修道院を設立。
その後に「フィジカ 自然の治癒力」という大著を書き上げた。
自然界における植物、動物、鉱石が人間の身体に与える効用を述べたものだが、そこに書かれている植物の多くは、道端や森の小道などで見つけられるものです。
ほとんどの薬草はヨモギのように地味でどこにでもある、そういう草にこそ優れた効果があるそうです。
植物を温と冷に分け、それぞれが対抗することによって人間の体内のバランスを保つのだと考えている、よい香りは悪魔が作る病気の予防になるといい、薬草が悪魔除けに果たす役割について多くを語っている。
ヒルデガルトはローマ教皇やドイツ皇帝にも認められた中世の宗教家だったが、しだいに忘れられていった。
ところが1960年代にアメリカで起きたウーマンリブの運動がドイツに入り、女性の歴史が検証され、ヒルデガルトの著作や生き方が再評価されるようになった。
現代では、彼女の自然についての知識、深い洞察に共感を寄せる人が増え、特に薬草を扱う人達にとってカリスマ的存在になってるそうです。
21世紀の今、自然を克服することに科学は行き詰まっているように見える。かつて魔女というレッテルを貼られた薬草を使う賢い女達の経験と知恵が見直されている。
科学テクノロジーが進み、人工物だらけの世界になっていく事は避けられない。それがいい事なのか?悪い事なのか?その答えはどの立場からの目線なのかで変わる気もするけど、生き物が暮らす為の家である地球からの目線で見ればいい事とは思えない。
だからこそ自然との調和を第一に考えた魔女達の世界観に立つことも必要ではないでしょうか?
引用および参考とした文献
「魔女の薬草箱」西村佑子
この本は、近くの古本屋でなんとなく気になって買ったんだけど、魔女の歴史、薬草の知識が分かりやすくとても読みやすい本でした。
魔女と薬草の関わりを多くの人に知ってもらいたい、そして読んで面白く、見て楽しい本にしたいとあとがきに書いてあったんだけど、その通りの一冊でした。